経皮的僧帽弁接合不全修復術(TMVr)

TMVrは僧帽弁閉鎖不全(MR)に対するカテーテル治療術です。全身麻酔下に、経食道心エコーガイドに僧帽弁の逆流部位にクリップをかけてMRを抑制する治療であります。大腿静脈を穿刺して、カテーテルを挿入し、下大静脈を通して右房へ進めた後、右房から心房中隔穿刺を行なって左房内へカテーテルを進め、エコーガイドに最も逆流している僧帽弁の部位へクリップをかけることで開胸することなくMRの治療を行うことが可能となりました。全身麻酔は必要だが、外科的手術に比べて開胸しない分、患者さんの負担は少なくすみ、退院までの期間も短い利点があります。MRには大きく分けて2つのタイプがあり、弁そのものの異常から起こる器質性MRと、弁の異常はないが左室や左房などの異常で僧帽弁の接合が悪くなり逆流を生じる機能性MRがあり、TMVrはいずれに対しても施行可能です。さらに、外科手術が左室駆出率30%未満の低心機能症例・機能性MR症例に対して、ガイドラインでも強く推奨されない状況の中で、MitraClipを用いたTMVrは左室駆出率20%以上あれば施行可能であり、外科手術が困難な症例に対しても行うことができる特徴があります。特に機能性MRに関しては、外科手術が心不全薬物治療に対して有効性を示せていない病態だが、MitraClipを用いたTMVrは機能性MRに対して心不全薬物治療に追加して行うことで患者の全死亡・QOL・心不全再入院を抑制した治療です。

60歳代女性:機能性僧帽弁閉鎖不全症



MitraClipを用いたTMVrは大動脈弁狭窄症に対するTAVIとともに、直接弁へ介入することができるカテーテル治療です。この治療は僧帽弁閉鎖不全を対象としていますが、TAVI同様に外科治療が困難な器質性MRの根治術となることに加え、機能性MRに対してMitraClipで治療することで、コントロール困難な重症心不全への治療手段となる術式です。重症心不全でカテコラミンから離脱できなかった症例がTMVrにてMRを抑制後、カテコラミンから離脱ができることも経験されます。機能性MRは心不全患者の5人に1人は中等度以上のレベルで認めると報告されており、今後高齢化とともに迎える心不全パンデミックという時代において、心不全死の抑制、心不全再入院の抑制など、心不全治療の有効な治療戦略となり得るものであります。

お問い合わせ先
循環器内科学講座
URL:https://www.fmu.ac.jp/home/int-med1/TMVr.htm

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